「 テスの思い出 」  ( 6 ) 
ー 坂道 ー
 


 あの写真にも、三輪車が写っている。

この坂道を、飽きることなく、三輪車で下っていたのである。
この坂道は、デコボコでガタガタと三輪車が走る。

 坂の下はT字路になっていて、道に出る。その道を右に曲がると高槻(たかつき)小学校。左に曲がると、山の奥の方へ入ってゆく。
 鉱山、採石場みたいなのがあるらしい。ピカピカ光る石を取ってきたり、磨くと水晶になるらしい石を取ってきたりした。
自分も何度かは行ったことがある。

 T字路を真っ直ぐに抜ける道がある。ちょっと脇にずれて入ってゆくのだ。細い道で人家の間を通り向ける。その途中にひー坊の家がある。

 ひー坊の家の前は川だ。
その川を渡る橋があって、それを渡って左に曲がり川沿いにちょっと行くと駄菓子屋がある。
当時十円玉一つで買い物が出来たのである。
十円玉一個握って、坂を駆け下りて、ひー坊の家の脇か、あるいはもう一つのルートで川沿いに出て、橋を渡って、駄菓子屋へ走る。なんともわくわくするのであった。

 ちなみに、この川で、ひー坊とタナゴを取ったりした。
川の水はそれほどきれいではないのだという。
 この川で、ひー坊とパンツ一枚になって泳いだこともあった。
ひー坊がこの川で素手で水の中からパッとヘビを捕まえたことがあった。目が見えるというのは、すごいことなんだなとちょっと思った。しかし、マムシだったらどうしよう。大丈夫なんだろうか?

 川で全身浸かって遊んだあと、川からあがって、ひー坊の家の井戸で水を汲んで身体を洗った。半ズボンもそのまま乾かした。

 そうそう、この駄菓子屋で、よくソーダ水を買った。粉を水にとぐとソーダー水が出来あがる。井戸の水だったのでけっこう冷たかったんだろうか。シワシワと泡が立つ。メロン味とかよく飲んだね。みどりがきれいでおいしそう。だけど。

 チクロって言うのが、昔よく甘味料で使われていたのだけれど、発がん性があるそうで、ご法度になった。その頃、着色料
も後にずいぶん使用禁止になったのだった。
 そういうの大好きで、駄菓子屋さんで沢山食べてしまったよー。

 坂道に戻って、坂道を降りてT字路、これを右に行くと高槻小学校のバス停。その手前でやっぱり川にかかる橋を渡る。
同じ川が続いている訳ね。
 そのバス停のちょっと横に、あー坊の家があった。
あー坊の家は川沿いで、家の一部がもう川のほうに突き出していた。この下って確かもう川だよねって。
あー坊の家の横から川に降りる階段みたいなのがあった。川原は石でゴロゴロ。ここもよく歩き回った。
ある日、猫の死体があったらしい。それで、僕がそれを踏んだとのこと。あーどうしよう。この川原を歩くたびに、もうまた何かの死体があるんじゃないかと心配だった。

「あのさー、なんか落ちてないよねー」

「大丈夫だと、思うよー」 

あー坊とひー坊と三人で遊んだ。
小学校入る前だね。

 あー坊の家には、聖さん、譲君、あー坊、都ちゃんと四人の兄弟があって、いつもにぎやかだった。
お泊りしたことも時々あった。

 そうそう、坂道を降りて右に曲がってすぐの所に、車庫のある家があり、その車庫のそばで犬の頭蓋骨を見つけたことがあった。
きっと、あー防かひー坊が見つけて教えてくれたんだろう。
見ちゃったよ。車に轢かれてそのままになってしまったんだろうか?

 坂道のところにお地蔵さんがあった。ここを通るたびにちょいとのぞいて行くのだった。

 そんな訳で、三輪車で、この坂道を駆け下っては、登って行くのだった。これは、飽きずにやっていた。
テスもいるしね。さびしかないんだ。

 この坂道、おやじさんがスパーカブで降りるとき、僕を後ろに、妹は一歳前後かな、妹を前に乗せていて、ブレーキが利かなくなったとのこと。
それで、T字路の正面に突っ込んだことがある。正面はちょっと落差があって草が生えていて空き地、ちょっと先に人家。
上手くさばけたようでみんな無事だった。

 この坂道、雨が降ると、滝のごとくに、川のように水が流れる。実は、ここは川だったのではないか。
家のあるところから下はまだいいが、家より上はもう人家もなく、水の流れもことさらに速いのだった。
石がゴロゴロ動くほどだった。

 この坂道の自宅のちょっと下で、よくグミがなっていて取ってくれた。またカラスウリもよく取ってもらった。
ほおずきもよくもらったが、やはり取ってきたんだろうか?


 この坂道。九州は案外雪が降る。何せ日本海に面しているので…。雪が降って、竹でスキーのようにして遊んだこともあった。

 なぜか牛乳配達をしていた。
近所を数件配って回るのだった。雪の日だったと思う。
この坂道の途中から、小久保さんちに上る細い道が別れている。足元が滑りやすい道だ。そして、草の中を分けて歩くと小久保さんち。足を滑らせて転んだ。牛乳瓶同士ぶつかって割ってしまったことがあった。こまった。


 この坂道も、大人になってから行って見れば、ささやかな坂道なのだけれど、その頃は、ずいぶんとながい坂道に思えたものだった。もう舗装もされているし。



坂道の写真

「テスの思い出」 その六  ー 坂道 ー  
( 2006.7.9   by makio-ym  )




      

ソーラさんとアスカさんののん気な一日 第二部 「 テスの思い出 」