「 テスの思い出 」  ( 4 ) 
ー ムカデ ー
 


 なんとなく、少し乗ってきた。最初は、書き始めてみたものの思い浮かばなくてあせった。あの家のことを思い出したら、イメージが湧いてきた。

 あの頃は、便所も汲み取り式だった。
確か、バキュームカーってのがあって、吸い取ってくれていた。
でも、あの坂道を登って、あの家までバキュームカーが入って来れたとも思えないなー。
 えっ、まさか、おやじさん担いでたのかな?

 便所は、怖かった。暗い、あの穴に落ちでもしたらどうしよう。
お化けが出そうな気もする。夜ひとりでトイレに行くのが怖かったので、おふくろさんを起こしたりしていた。
実際、トイレに子供が落ちたと言う話はよくあったみたい。

 恐ろしいといえば、ムカデがよく出た。見えない自分にとっては、あんなものがもしかすると出るかと思うだけで、身がすくむ思いだった。気がつかなくて踏んじゃったらどうしよう。射されると大変なことになるらしい。第一恐ろしい。射されて大変なことになるよりも何よりも、あの存在、あの色、あの姿がもう怖い。

 それが、また、巨大!10センチ以上ある。それが、言われた方をひょいと見ると、よく見ると、壁のところに貼りついている。
 
 見つけたら、どうしたんだろうか?捕まえて、ホワイトリカーにでも漬け込んだが、棒で引っ掛けて外にでも退散してもらったんだろうか。あるいは、人に害をなすこともないので、鷹揚にそのままそっと自主的退散を願ったのだろうか。
焼き殺したような気もするし。
それムカデが、よく現れたのだった。

 悟空の大冒険という手塚治虫のアニメで、大きなムカデの妖怪が出てきたりしたっけなー。怖いねー。

 ゴキブリと言うものは見たことがなかった。

 掃除のとき、カーテンの陰に、大きなどぶねずみの死骸が横たわっていたこともあった。

 蛾とか、カミキリムシとかよく侵入していた。
蛾もハタハタと巨大蛾が来ることもあった。山の中、電灯の灯りに誘われるのだろう。

 隣のおじさんのとこのいとこたちは、虫取り網で昆虫採集をしていた。大きな、蛾や蝶々の標本も揃っていた。
大きな蛾とか家の中に入ってくると、あれは何の種類だろう。見たいに観察して、虫取り網を取り出してくるのだった。冷静だね。
 見えないと、とにかく虫とか怖いよー。
それに持たせてもらっても、服に足でしがみつく。それをぎゅっと無理にはがすときに、あの足が取れてしまったらどうしよう。と思うのだった。無理に引っ張ってポロっと足が取れてしまったら、気の毒だし、それを自分がやってしまったとしたら恐ろしい限りだ。
だから、ギンギン虫なども服に着くと上手く取れなくて困るのだった。
きっと
よく見るとかわいいのだろうけれど…。子供の頃は怖かった。

 虫の話になってきたのでついでに。
蚊も多かった。夏は蚊帳(かや)を吊ってねた。
蚊帳に入るのは、子供心に楽しかった。

 蝿も沢山いた。食べ物を出すとすぐ飛んでくる。蝿を追い払いながら食事をするのだった。
蝿取り紙を吊っておくとすぐに真っ黒になるのだった。
食事などを置いておくには、「網かぶせ」見たいなのがあって蝿がたからないようにかぶせておくのだった。網のドームに、お膳に置いたご飯やおかずやおつゆが、スポッと全部収まる。

 蝿たたきで叩いていたのでは、とても間に合わない。
そういえば、網戸と言うものが、あのころあったのかどうか。

 そうそう、ガスはプロパン。水道は井戸水だった。


 前回鯉のぼりを家の中に貼ってくれたと書いた。
これは、後で聞いたところによると、鶏を飼っていたそうだ。養鶏ね。その当時卵が高値だったので、それで生計を立てることが出来たそうだ。その鶏の卵を、狐が盗みに来る。そこで主人公テス君の登場という訳。鶏小屋の番犬が本職なのです。それで我が家に飼われたのでした。小屋の前に針金を渡して、鎖がスライドするようにして、自由に動き回れるようにして、テスは活躍したようです。

 しかし、番犬のその彼自身もまた、卵の魅力には惹かれるところがあったようです。取りたての卵を、かごに入れておいて、テスに食べられたという話もあるのです。
 まさか、彼自身盗み食いを…。
あってはならないことです。相当バツが悪かったのではないでしょうか?それほどいつもいつも用心しなければならないほどではなかったようですが、ときどき忘れた頃に、魔が差すようでした。

 その鶏が、鯉のぼりが風にハタハタとなびくとびっくりして卵を産まなくなてしまう。だから、家の中に貼ることになったとのこと。


 「テスの思い出」 その四 − ムカデ ー
 ( 2006.7.9   by makio-ym  )




      

ソーラさんとアスカさんののん気な一日 第二部 「 テスの思い出 」