「 マッチ売りのソーラ そのニ」




 今日は、クリスマス。でも家にはもう食べるものもなくなってしまった。
と父は言うのである。
 このマッチを売って来ておくれ。そして、ケーキでも買って来ておくれ。
ささやかにクリスマスを祝おう。

 父は、もう酒を買う金もなくなってしまった。
だから、ここのところ酒を飲んでいない。
 少し元気なようだ。
こんなぎりぎりのところで……。

 そう、しかし、父の身体は既に肺病に冒されていたのである。


 ソーラさんは病気の父の言いつけで、マッチを売りにきたのである。
このマッチが売れないことには、ケーキを買うことも出来ない。

 病気の父とホントにささやかなクリスマスを祝うことも出来ないのである。


 「マッチは要りませんかー。マッチ。マッチ。マッチですよー。」

 そんなソーラさんを見かねて、幾人かの人が、マッチを買ってくれた。
でもマッチはまだたくさん残っている。

 日はだんだん暮れて来た。
あっという間に、暗くなってしまった。

 家々の明かりがともっている。

 街のクリスマスツリーがとても綺麗だ。
ソーラさんは見とれる。

 「マッチは要りませんかー。お願いです。マッチを買ってくださいー。」

 夜はあっという間に更けてゆく。
もう当たりはすっかり暗くなり、深々と雪も降り出した。

 冷たい雪。深々と寒さが募ってゆく。

 マッチは結局売れない。もう食べ物買うことも出来ない。
父が、今日は飲むお酒もなく、咳こみながら横たわって、
そして、ソーラさんの帰りを、ただただ待っているのである。

 
 雪は降り止まない。だんだん街を白く覆って行くのである。

 でも、今夜のソーラさんには、寒いという感じがあまりしなかった。
空から舞い降りてくる雪がをただただ美しいと思うのである。



     その三