「ど近眼のマッキーさん プロローグ」


 いよいよ「ど近眼のマッキーさん」である。
愉快に楽しんでもらえたらうれしい。

          ヨロシク。(^_^)


 ある朝、めを覚ますと、わたしの身体にはふさふさとこげ茶色の毛が生えていた。
鼻先が長く伸びていた。そして鼻が黒々とぬれて輝いていた。
 目はデカかった。目を細めるのに苦労した。耳もうふんわりと両ほほに下がっていた。

 わたしはミニダックスになってしまっていた。
わたしがミニダックスになってしまったのならば、名前はこれしかない。

 そう、マッキーさんである。

 しかし、ミニダックスになってもど近眼は治っていなかった。

 あわてても仕方が無いので、バスに乗って仕事へ出かけた。

 仕事場につく、タイムカードを押して、自分の部署へと向かう。
すれ違う職員もみなミニダックスだった。

 ど近眼のマッキーさんにはすれ違う犬いぬが、みな同じに見えて区別がつかない。
体型や全体の印象から、知っている犬であれば、少し離れていても誰かはわかる。

 ここで、この時間このいぬとすれ違うはずだ。
ここには、このいぬがいるはずだ、
といった感じ。

 だから、マッキーさんははじめての環境、初めての人に会うのが苦手である。

 「おはようございます」

 と挨拶をする。

 挨拶はコミュニケーションの基本である。
これによって、一日がさわやかにはじまるのであるが。

 廊下で、誰かとすれちがう。
3メートルほど離れていると、
マッキーさんにはもうそれがだれなのか、確固たる自信はもてない。
 すれちがいざまにちらりと顔がわかる程度。

「あれは、だれだろうな?」
とりあえず、挨拶しよう。

 「おはようございます」

 「おはようございます」
 と挨拶をかえしてくれる。

 それは、あこがれのソーラさんであった。

 (ドキッ、おっ、ソーラさんだったのか。ひえー)

(なぜか、ここでソーラさんが登場するのである。
ほんとは、今ごろウチのベランダで日向ぼっこしてのへーと寝ているはず。)

 みんな、当然のことながら、短い四本の足を高回転させながら、
胸をはってしっぽを振りながら歩いている。

 必要な書類をとり、階段をのぼり、わたり廊下にさしかかる。  
また、向こうから誰かやってくる。

「おはようございます」

「えっ、ふふふ」

 それは、またもソーラさんだったのである。

 近づけば、それは確かにあこがれのソーラさんである。

(ドキッ、うーん、そーか)

 誰でもかれでもとりあえず挨拶しておけば、まあいいだろう。
と思っているのだが。
 肝心な場面では、ちょっと引かれそうだな。

 また、向こうから別のいぬが。

 さっきのこともあるし、まあ、黙っていよう。

 「 …… 」

 「マッキーさん!」

 それは、ベテラン職員のアスカさんだった。

 「ちょっと、あんたね。挨拶ぐらいしなさいよ。
アイサツぐらい。」

 「あっ、おはようございます」

 よく見ると、それは、たしかにべてらんアスカさんであった。
なーんだ、別に、なんとも思わない。ドキッとはしない。

 それでも、やっぱり、あいさつくらいしないのも、
気分わるく思われるかもしれないなと思った。
これが、ソーラさんだったら…。ちょっと悲しい。

 何回もあいさつをすると、ちょっとひかれる。
あいさつしないと、無愛想に思われる。
 マッキーさんは、どちらも完璧には行かないなーと思う。

 でもふと、何回もあいさつをすれば、案外よろこぶいぬも、
もしかしたらいるかも知れないなと、思い直した。

 よし、何回でも挨拶してやる。

                (おしまい)

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