むかし、子供のころ、九州でテスという犬と暮らしていた。
裏山があり、散歩といっても、鎖を離してあげると、自由にそこらをかけまわっていた。
近所の犬たちと、よくけんかもしてきたようだ。
ときどきケガをして帰ってくることもあった。
ある日、胴の左側面、足に近い方、少し背中よりの所を噛まれたらしく、
毛がぬけてハゲハゲになっていた。
皮膚の病気のためなのか、定かでない。
しばらくの間、泥のような軟膏をおばあさんがつけてあげていた。
そんなことを思い出した。
ソーラさんも噛まれたのだろうか?
(さては、アスカさん、ついにやっちゃったのか!?)
わたしは、2年ちかく前にソーラさんとアスカさんが仲が悪い時期に、
アスカさんが、ソーラさんを小屋に入れないようにして、
鼻先でつつき出すところを見たことがある。
一瞬、そんなシーンがよみがえった。
しかし、こんだけの5センチの直径にも及ぶハゲを作るとは、大変なことだろう。
アスカさんが、ソーラさんのお尻を噛み、
ズバッっと、毛をむしりとる荒々しいシーンがよぎった。
「アスカ、ちょっと来い!」
わたしは、ちょっと恐い声で呼ぶ。
アスカさんはきょとんとしている。
しぶしぶと、のそのそやってくる。
気が進まないようだ。
(なんか、おこられそんな雰囲気ねー。)
「これは、どういうことなんだ!」
アスカさんは、しっぽを振っている。
「これこれ、これだよ!」
と、ソーラさんの左のお尻の大きなハゲにアスカさんの鼻突きつける。
相変わらず、しっぽを振っている。
何か、訴える表情である。
(あたしゃ、じぇんじぇん知りまっしぇん…)
こんな平気な顔をして、このアスカさんはこんな恐ろしいことをしでかしたのである。
わたしは、疑念を抱いているのである。
「いくらなんでも、こりゃまずいだろう!」
(はー、なんでしょうか。じぇんじぇん話がわかりまっしぇん。)(^^;)
「しらばっくれてるな。ついにやっちゃったんじゃないのか」
(うたがわないで…、うたがわないで…。ちがう、ちがう。とんでもありまっしぇん。)
ポカリ
わたしは、アスカさんの頭を久しぶりにひとつふたつ叩いた。
まだしっぽを振っている。訴える表情だ。
「アスカ、この期に及んで白を切るたぁーふてぇやつだな」
(ひぇ〜、まだ、うたがってるの〜。勘弁して〜。)
(つづく)
その三