「 抗争勃発 」

                  


 散歩へ出かけるときも、食事を上げるときも、遊ぶときも、そしてだっこのときも、
ソーラさんとアスカさんは、我さきにとすごい勢いでやってくる。
 いつもの光景である。

 イスに腰掛けて、テレビなどみているとき、ふたりを一緒に抱き上げて膝に乗せて,
しばらくだいているときがある。

 このとき、ふたりを膝の上に乗せているので、ふたりにとっては窮屈ではある。
このポジションをあらそって、膝の上でごちゃごちゃと動いている。

 わたしの体に近いほうが特等席。

 お互いに、お互いの体を乗り越えるようにしてこのポジションを狙うのである。

 一見なごやかなこんな風景のなかにも、大変な努力が隠されているのである。
それほど、「ソーラさんとアスカさんののん気な一日」ということではないのかもしれない。
 のん気な気分になろうと、読んでくれている方には、
ちょっと申し訳ないかも知れない。

 ある朝、どうもふたりの様子が変だと言うことがあった。

 ベランダへ出てもらう。

 ところが、アスカおばさんは、屋外用の三角屋根の小屋(いかにも犬小屋)に
たてこもり、ソーラさんがくると

 「うー」

とうなったりして、中に入れさせないのだ。

 (むむ)

 その上、ソーラさんが中に入ろうとすると、鼻で外へつつき出したりする。

(ややや)

 「ぐるぐるぐる」

とか、低くうなる声がしていたが、

やがてソーラさんの

「キャン」

という声が聞こえてきた。

 (ひぃや〜)

 生きてゆくのはどこでも、厳しいことのようである。

 なんでかなー?
これまでそんな事もなかったのに……。

 でも、わたしは、バスに乗って仕事へ出かけるのだし、
下手をすると、こんな状態が、一日続くのかな。
 まあ、わたしがいても、どうせ大したことはできない。
悲鳴が聞こえたとき、
ちょっとベランダをのぞくくらいのものである。

 ふたりの問題は、ふたりで解決するのが一番よいのだろう。
くらいに考えていたのである。

 「アスカ、ソーラをいじめちゃだめだよ。」
と言い聞かせてはみる。

 でも、わたしは、もう出かけてしまうのである。

 あとは、ふたりだけ!

 これまで、抱き上げるときも、食事のときも、遊ぶときも、
特にふたりの順番というものは気にしていなかった。

 アスカさんは積極的で、前へ前へと出るタイプ。
ソーラさんは、なんとなく控えめなタイプである。
 それで、我が家に先にいるソーラさんよりも、
ついついアスカさんをどうしても先にすることが多くはなっていた。

 しばらくこんな状態が続いたのである。
アスカさんがウチへやってきて一年目くらいのころである。

             (つづく)    
     

 「アスカだめだよ」

としかっても、しっぽを振りながらきょとんとしている。

 いぬいぬ博士の妹に聞いた。

 繁殖の時期にはいると、テリトリー意識が強くなり、
気が立っていることがあることがひとつ。
 また、犬の社会には順番がちゃんと決まっているので、それが混乱すると、そういうことが起こるとのこと。

 順番をちゃんと決めてあげればよいとのこと。

 自主性に任せておけばいいんじゃないの。
ほおって置けばいい。
と思っていたがそうでもないようだ。

 ある日、台所をソーラさんとアスカさんが自由に歩き回り遊んでいた。
わたしは、テレビなどを見ていた。

 すると、アスカさんがソーラさんの背中の上にのっている。
ソーラさんは、いやがり逃げてはいたが、
ついには、あきらめておとなしく背中に乗られていた。
(はーあ、へえへえ、かしこまりましたでござんすよ〜)

 「ありゃりゃ」

 「果たして、こういうのは、見逃してもよいのだろうか?
よくわかんないなー」

 いぬいぬ博士の言葉を思い出し、
ちょっとアスカさんには気の毒であるが、

 「コラ、アスカ、ダメダゾー」

と、ちょっと、デカい声で脅してみた。

 するとアスカさんは、ハッとなって、机の下に逃げていった。

 それからは、見つけるたびに、そうした。

 「コラ、アスカ、ダメダゾー」

 一応、ソーラさんが早くからウチにいるので、
ソーラさんをたてることにした。
 順番を決めて、必ずソーラさんを先にした。

 マウンティングを見つけるたびに、

 「コラ、アスカ、ダメダゾー」

 「コラ、アスカ、ダメダゾー」

 「コラ、アスカ、……」

 アスカさんは、だんだん小さくなって、
シュンとおとなしくなってしまった。
 
 その後、抗争は沈静化された。

 それは、まあ、アスカさんの腰痛寝たきり事件とも前後している。

 しばらく時間が過ぎた。

 ある日のこと、

 逆にソーラさんがアスカさんの背中にのっていた。

アスカさんは、いやがり逃げてはいたが、
ついには、あきらめておとなしく背中に乗られていた。
(はーあ、へえへえ、かしこまりましたでござんすよ〜)

 こういうのを傀儡(かいらい)政権って言うんだろうなー。
 
 ほんとに、これでよかったのだろうか??。
 
               (おしまい)     
                         (2002年6月上旬)

(このページに流れている曲は「thief-泥棒」です。kakizakiさんの曲を使わせて頂いています。ひそやかな緊張感があります。この静けさがクセになりそうです。聞いてください。)

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