「 新幹線に乗って 九州へ そのニ 」



 途中、おにぎりを食べていると、ほしがって遠慮かちにないた。

 それでも、まわりの人に気付かれないかとドキリ、ヒヤリとする。

 (もう完全にばれている)
 
 一応、手荷物料金は払っているので問題はないはずだとはいえーー。
 おやじさんたちと違って、何事にも気の小さなわたしである。

 途中、水を上げたり、少し食べ物をあげたりした。
また、落ち着かずに小さな声でなき始めたので、
抱っこ用ふくろにいれて膝に乗せて少しあそばせた。
 しかし、袋から顔をだしてきて、体も出してきて困る。
ついに車掌さんから注意を受けた。

 「他のお客さまもおりますので、ペットは籠の中でお願いします」。

といっても、こうしないと返ってなくからなー。

 以前、新幹線で、盲導犬を見たことがある。
大きな犬だ。ゴールデンリトリバーという賢い犬だ。
その中でも、鍛錬されたエリートだけが、この仕事につくことができる。
 しかし、2,3年でリフレッシュ休暇が必要なようである。
 この犬は座席のご主人の足元に伏せてピタリとも動かずいい子にしていた。
さすがというしかない。ストレスもたまるかも知れない。

 それに、比べると彼女たちはーー。

 しかし、ソーラさんとアスカさんもりっぱであった。
そのあとは、なくこともなく、状況をわきまえてか、非常に協力的であった。
 寝ていたのかも知れない。

 ハーよかった。

 無事に小倉についた。

 「何とかついたねー」

というと、おやじさんたちは

 「なーに、犬っていうのは、大丈夫なもんだよ」

と強気のコメントである。

 もう、6時過ぎだ。すっかり暗くなっている。
いとこのSさんがご主人さんと車で駅まで迎えにきてくれた。
 車の中では、籠から出て、
すこしずついつものペースに戻りだしたソーラさんとアスカさんであった。

                (つづく)  

     

 九州の家にも、老犬のセブンさんがいる。
もう15歳になるそうだ。また、猫が3匹いる。
 ソーラさんとアスカさんは、別室がちょうどよくあるので、
そちらで寝かせてもらった。
 なれない場所で、夜、少しないたようだ。

 次の日は、せっかく九州は小倉に来たので、
帆柱山のロープウェイに登ることにした。
 ソーラさんとアスカさんは留守番である。

 帆柱山は、通った小学校の校歌にも歌われていた。
夜景で、帆柱山のロープウェイの灯りを見たことがある。
 頂上からは、若戸大橋が見えた。
青い海が見えた。工業地帯の煙突から煙が出ていた。
 天気もよく、広々とした眺めであった。

 帰ってみると、ソーラさんとアスカさんは、別室から出してもらって、
九州の家の中やベランダや庭を歩きまわっていた。

 子供さんたちが遊んでくれていた。

 我が物顔に歩き回っていたのである。

                  (つづく)  

     

 翌朝は、早くおきた。

 子供の頃歩いた坂道や、川にかかる橋など散歩した。
十円玉を握って駄菓子やへよく行った。その道をたどってみたりした。
 石垣の多い町である。古い町である。

 こんなところに九州自動車道の高架橋がある。
自然が豊かに残り、とにかく、懐かしい感じのする町だ。

 ソーラさんとアスカさんもたっぷり歩いた。
少し歩きすぎたかも知れない。
きっと、新幹線の中でよく眠ってくれるだろう。
体調を整えるにはお散歩がいいのだ。

 それに、きのうも一日たっぷりと遊んでもらっている。

 11時から法事がはじまった。
13年前は、お経を上げるのを聞いていて足がしびれた。
そんなことを、言っては申し訳ないがずいぶん長くも感じた。
 しかし、今回は、御本をみ見つつ一緒にお経を上げると言う形式だった。
周りの人も、当然のごとく、しっかりついて来ていた。
 漢文の授業を思い出す。
漢字を見ていると少し意味がうっすらと分かる気がする。
リズムと規則性が音楽のようだ。
 あっと言う間に最後まで行くってしまった。
足もあまりしびれなかった。


 帰りは、彼女たちの籠の重さがやや増した気もするが、
勢いに任せて一気に帰り着いた感じである。
 新幹線のなかも、彼女たちはよく寝ていた。
新幹線を降りてからは、最終に近い電車となり、大急ぎで乗り換えた。
往きにくらべると、この時間帯であるだけに、駅の人もまばらだったのである。

 あとから思ったが、
朝一番ののぞみ号に乗れば、
あるいは、法事の時間にギリギリ間に合ったかも知れない。
 今は、九州は小倉といえども、日帰りも可能なのだ。

 しかし、それでは味気ないのである。
(九州のみなさん、大変お世話になり、ご迷惑もかけて、勝手なことを言っております。どうも。)

 このソーラさんとアスカさんとのふるさとへの旅は、
きっと、思い出に残ることだろう。

               (おしまい) 

                        (2002年3月下旬) 

 (このページに流れている曲は「navigation」です。satokaさんの作品を使わせていただいています。ゆうゆうと胸をはって歩きたくなる感じがします。このエッセイには、軽ろやかな感じの曲かな、と思っていました。でも、「navigation」を使わせていただいたら、
「これだ」と思いました。聞いてください。)


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