「 お散歩へ行こう 」



 お散歩へ行こうよと、彼女たちはいつも、せがんでくる。
彼女たちにとって、お散歩は何よりもたのしい出来ごとだ。
まるでピクニックに出かけるような、デートに出かけるような楽しさかもしれない。

 以前アパートで暮らしていたとき、床屋のおじさんとおばさんがご夫婦でやっていて、

「昔は楽しみがなかった。それこそ映画を見て、食事でもすればものすごいことだった。」

とご夫婦で頭を刈りながら話してくれた。
 なぜかそんなことを思い出すほど。
きっと彼女たちには楽しいことなのだと思う。

 ウチから出ると近くに、五階建ての公団住宅がある。
その一部に中央公園があって、広々としている。
 春にはこんなとこに桜が咲くのかと、ちょっと驚く。
夜の散歩では、その桜が街灯のあかりでライトアップされてきれいだ。
今年も、もうすぐ見られそうだ。

 この前は、日中も曇り空であったが、こんなとこに梅ノ木もあるのかと。
梅は、枯れ枝のようなとこに、渋く花が、ぽつんぽつんと咲いていて、

 ほんとにわび、さびの世界だなー

と改めて思ったりする。

 お散歩していると季節の移り変わりや自然をめでることが出来る。
わたしにとっても楽しみなことだ。

 彼女たちが、どれほど散歩を楽しみにしているかは、
出かける前の張り切り具合からもよくわかる。
飛び跳ねるばかりに、というか飛び跳ねてよろこんでいる。

 外出用のジャンバーをはおるだけで、
小屋(ゲージ)の中がざわつき出す。
鼻で金網をゆするのか、カラカラとなる音も聞こえる。

 ちょっと部屋の中が寒かったので着ただけなのに、

 「すごくやりにくいんだよね。」

 寒いから、今日はもう、お散歩はキャンセルしようと思っているんだけれど。

 首輪に散歩の紐を付けようとするんだけれど、飛びついて顔を舐めにくるので、
金具がうまくはまらないんだよね。
 もう少しじっとしててくれないとね。
どうしても接近戦になるから、顔もそうとう舐めてもらえる。

 彼女たちは、いつもは二階のベランダにいるのだけれど、
抱えて階段を下りて一階に下ろすわけ。
両脇にミニダックスを抱えておろすので、暴れると落としたらやばいからね。
そのときは彼女たちも神妙にしている。

 彼女たちは体が小さいし、足も短い。
だから、そんなにたくさんは歩かなくてもいいみたい。
短い足が、せわしなく高回転でコロコロと動く。
こちらがゆっくり歩いているつもりでも、彼女たちには、駆け足なのだ。
もっとゆーっくり歩いてあげないといけない。

 特にアスカさんはもう10年選手だから、相当へばってきてる。
去年は寒い時期腰痛になった。これは結構やばいことだった。
外は寒いので、もうベランダへもださなかった。
 歩くのもソーラさんだけにして、
かといってつれてゆかないのも酷だから、抱えていった。

 最近は、アスカさんも、もう元気いっぱいだが、
ちょっとあるくと、
ソーラさんはどんどん前にゆくけれど、
アスカさんは、最近でも、もうすぐウチの方へ帰り始めるからね。
それでもお散歩大好き。

                             (つづく)
     その二