「 アスカ地蔵 そのニ 」




 もう、日が暮れてきた。
そろそろ、村へ帰らないといけない。そうしなければ、夜も更けてしまう。

 ねばった。もうギリギリ。これ以上は長引かせる訳には行かない。
夜がふけると、山道の寒さは増して、ヤバイ。
 それに、さっきから雪がチラチラと舞っているのである。

 ひとつだけ笠が残った。

 まっ、いいっかー。

 切り上げて、町を後にした。

 雪がだいぶ降ってきた。

  さて、残った菅笠を一つ軽やかに振りながら、町を出て、野を越え、山を越え、丘を越えて、小川をわたる。

 はー、だいぶ歩いたぞー。
雪もしんしんと降り積もってきた。
 寒いなー。でも、あとひと頑張りだー。何とか帰りつけそうだなー。
ウチに帰ったら、暖かな囲炉裏のそばで、あの餅でも煮て食ったろー。
あったかいだろうなー。うめーだろーなー。
 おー寒ぶ寒ぶー。もうちょっとだー。


 そしてまた丘を越える。もう村もだいぶ近づいてきた。
丘のふもとには、今朝、見送ってくれたあの地蔵さまがいる。

 地蔵さまはふたり! 六人ではない?
どこかでみた様な面差しではある。

 あれっ、どこかで見た様な顔。
でも、どうも思い出せないなー?

 ひとりは、ほっそりと美しげな地蔵さま。
もうひとりは、ふくよかな愛嬌のある地蔵さまである。

 村の人だったかなー……。まあ、いいやー(おーい、忘れるなー)

みると、頭に雪が積もっている。

 マキ作は地蔵さまの頭の雪をはらってあげた。ひとり、そしてもう一人。

「地蔵さま、こんな所でお仕事でずっと立ってなくちゃーならない。ご苦労さんです。頑張ってくださいねー。ホントですよー。」

 マキ作は、一つ売れ残った笠をまず……、

儚(はかな)く美しいげな地蔵さま頭にかぶらせてあげる。

 笠はもうない。まあ仕方もないことだ……。せめてもの気持ちだから……。

まあ、もう一人の地蔵さまはたくましそうだし、強そうだから雪ぐらいはへとも思わないだろう。

 でも、地蔵さまの顔を見れば、何となく、ご不満のようにも見える。
やっぱまずいかなー。

 マキ作は寒さの中であるにもかかわらず、ちょっと考え込む。