「 アスカ地蔵 」




 今年も、今日でおしまい。
そう、今日は大晦日。

 マキ作はせっせと菅笠編んだ。
もうずいぶん出来た。
今日は、この菅笠を持て町へ行って売ってくるのである。
そのお金で、餅でも買ってこよう。餅でも食って正月を迎えよう。
そのようにマキ作は思うのであった。

 マキ作はこの村で、一人でのん気に暮らしているのである。いつもは田んぼ耕したり、畑をやったりしている。いいねー。

 さて、出来上がった菅笠を抱えて、村を出て、野を越え、山を越えて。

丘のふもとでは、地蔵さまが見送ってくれた。

 そしてまた、小川を渡り、また丘を越えて、町についた。
あーはるばる来た。菅笠背負って歩いてきた。

 町は大晦日、どこもかしこも人があわただしく行き交っている。
どこもかしこも混み合っていた。

 「おーい、笠はいらんかねー。菅笠ー。」

 「ちょっと、だんなさん、笠、笠ですよ。今日は、雪が降りまよ。笠あった方が便利ですよ。」

 「おっと、おかみさん、笠どう。高級編み笠、丈夫で長持ち、品質保証、それにおかみさんによく似合うよ。いいねー。」

 「坊ちゃん、お嬢ちゃん。笠どおー。投げるとよく飛ぶよー。ああちがうねー。」


 マキ作は、風天の寅さんのように、売り言葉をたえずしゃべりながらリズムに乗って、勢いに乗って菅笠を売るのであった。

 かなりの苦戦ではあった。世の中不景気。パットしない。それでも年末は少し財布のひもがゆるむのか。多くの人が行き来している。

 途中笠の出足がパタリと止まってこれはちょっとやばいなーっと思ったり。
しかし、マキ作はめげずに……

   「おーい、笠はいらんかねー。菅笠ー。」

 「ちょっと、だんなさん、笠、笠ですよ。今日は、雪が降りまよ。笠あった方が便利ですよ。」

 「おっと、おかみさん、笠どう。高級編み笠、丈夫で長持ち、品質保証、それにおかみさんによく似合うよ。いいねー。」

 「坊ちゃん、お嬢ちゃん。笠どおー。投げるとよく飛ぶよー。ああちがうねー。」

 ……と、リズムにのってゆくのであった。