このシャンパンには、過去につらい思い出があるのである。
みなさんもあるかも知れない。
その日は、オードブルのどを用意していたのだが、さー宴会のはじまり、シャンパンを開けたのである。景気よくね。
パーン、
ガシャーン
蛍光灯が割れてしまった。
ガラスの破片がサラサラとオードブルの鳥のからあげに降り注ぐのである。
ほんとかー。
はじまったとたんにみんながっかり。立ち上がれない。
怒り出す人もいる。
けどしょうがない。いやー。まじつらいっすよ。
シャンパンを開けるときにはご注意を。
この日は、大丈夫。
ポーン、すごい勢いで、シャンパンのふたは天井へぶつかって、そして無事に部屋の片隅に突き刺さっていった。(天井低いから、跳ねかえる。)
いつのまにか、寮の他の部屋の人も来ている。
ウイスキーを一本持参してきた。
「いやー、やってますねー。」
「あらら、どうぞどうぞ、ご一緒にどうですか」
すきやきがはじまった。
さて、仕切るのは、ソーラさんとアスカさんである。
もともと、主催者はこのコンビなのである。
「すきやきって、どうやんだっけねー。」
「へっ、アスカさん、知ってるんじゃないのー」
「へっ、大丈夫よー。だいじょうぶ!」
「 …… 」
「さてと、今日はなにから入れようかしらねー。」
「おいおい、こういうのは、肉からじゃーないの……。だいじょうぶ?」
マッキさんはちょっと心配になった。
「じゃあ、肉から行きましょう。」
「これ、高かったんだよねー。牛肉。シモフリだよー。」
これは、マッキさんが当番で買ってきたのだ。
そんなことを言いつつ、作業は進む。
マッキさんは、横からとやかく口を出すだけで、結局は、自分では何もしないのである。
見てるだけ。文句ばかり言っている。
こういう人よくいるんだよねー。
さて、味付けである。
醤油を入れる。
マッキさんは口を出す。
「なんか、日本酒とか入れるんじゃなかったけ……」
「えっ、そんなものないわよ。じゃあーワインでも入れておこっと。入れていいのねー。」
じゃぶ。
「もう少し入れても、いいんじゃないの。」
マッキさんのイメージ的には、もうちょっと。
「すきやきに、お酒なんて入れて大丈夫?」
ソーラさんは、心配そう。さっきのお客さんも何もいわない。
よくしらないし、地方によってやり方がちがうんじゃないかなー。
とのコメントだった。
「じゃあ、ワインは、このぐらいにしときましょ。
これで、出来上がりよね。あとは、もう少し白菜が煮えればね。おいしそうねー。」
「あのー、ところで、砂糖とか入れなくていいの?」
マッキさんは、確かそのように思っている。
「砂糖? じゃあ、さとういれましょかねー。」
アスカは、さとうが角砂糖しかないので、それを放り込もうとする。
「えーーーっ、さとう入れちゃうわけー。」
ソーラさんがびっくりする。
それを聞いて、マッキさんの方がびっくりする。
「だってーー。すきやきに、さとう入れるでしょうがー。これ常識だよー。ジョウシキ。」
するとお客さんが。
「ほー、さとう入れるんですか。はー。」
「ちょっとー。入れるんですよ。さとう。普通入れるんですよー。信じて、お願い。」
思わぬ、勢力が現れた。
みんなは、ほんとかーみたいな感じでマッキさんを疑わしげに見ている。
こうなると、これ以上主張しても無駄なことである。
「じゃあ、ちょっとだけ」
アスカさんが、マッキさんに気を使って、少しだけさとうを入れてくれた。
マッキさんは思う。
(ほんとかよー、おーい)
結局、この寮では、すきやきは醤油中心の味付けになった。
というか醤油以外の調味料は使っていない。
「卵につけてたべるのよねー。」
それは、確かにそんな気がした。っと意見の一致するところであった。
なんか、すきやきっぽくなってきた。確かにすきやきなんだけど……。
それでも、美味しかったのである。