ははー。とわたしは思う。
でも、あれって隠れてるんだよねー。
なんかすぐ見つけちゃ悪イなー。
「あれっ、どこにいったんだろうー。おーい。ソーラさーん、スカさーん。返事してみてよ。」
「…………」
ちょっと見えているシッポの先が、得意そうにゆれているのである。クククッ、て感じ。
あれは、きっとソーラさんだろう。
「出てきてよー。まいったなー。」
気付かない振りをして、ベランダから遠ざかる。
横目でそっと見ていると、ちょっとソーラさんが体の向きを換えてこちらに振り向こうとしている。シッポの動きですべて分かるのである。
今度は、アスカさんだ。たしか台所の隅のゲージの方で声がしていた。
ゲージの方へ近づく。ゲージの中は空っぽ。
あれっと、おかしいなー。ちょっと、戸惑う。いないよ。
こんなとこで他に隠れるところもないはずなのに。
そのとき、一瞬ゲージの横のカーテンがちょっと揺れた。
ゲージと壁の間にわずかの空間がある。カーテンがその間に入り込んでいて、二本足で壁に寄りかかるように立てば、カーテンをまとった格好でちょうど体が収まりそうだ。
なるほど、いつも四つん這いだと思っているから、分からなかったんだ。盲点を突かれたな。発想の谷間だな。気づかなかったなー。
でも、きっとああいう姿勢で立ってるのは、ミニダックスのアスカさんにはきっと、けっこう無理があるんだろう。
ときどきカーテンがふるふるっとゆれるのである。
がんばってるなー。アスカさん。
「あれっ、いないなー。どこだろうー。まいったなー。」
その場をはなれる。横目で見ていると、アスカさんはさもホッとしたようにカーテンのかげで四つん這いの姿勢にもどっているようだ。
やはりわたしは、気づかない振りをして台所の方を向かう。
「どこだろう、どこだろう……」
背中を向けているベランダの方でカサコソと足音がする。
きっと観葉植物の台の前へ移しておいた、例の宝物であるところのホネガムの奪還をソーラさんがねらっているのだろう。
わたしは、ホネガムからだいぶ離れて台所の流しの方まで近づいていたのである。
今、振り返ればソーラさんより早くホネガムにたどり着けるだろうけれど……。
考えてみれば、ミニダックスといっても考えることは3歳か4歳の子供と一緒なのである。ふたりに宝さがしごっこい誘われて、どんな風にふたりと遊べばいいのか戸惑ってしまったけれど、たのしく、何も考えずに一緒に遊んであげれば、それでいいのであった。
ふたりは、それで充分に、喜んでくれるのである。
緊張して損したなー。
そんなことをちょっと考えていると、ソーラさんがベランダを乗り越えて必死になって一生懸命に、ホネガムに向かっている。
「あーあっと、しまったー。やられた。」
ソーラさんは得意そうにホネガムをくわえている。
「ご主人、ダメですよ。油断しちゃね。鬼もう一回ですよ。」
アスカさんもカーテンから出てくる。
「やったー」
カーテンの中はちょっと暑つかったようで、ちょっとのぼせたかんじになってる。カーテンの中で一生懸命に立っていたんだろうなー。
アスカさんも得意げに
「鬼は、もう一回ですよー。」
「鬼、鬼、鬼、もう一回 −−−!キャハハハハー」
ふたりは勝利の凱歌にはしゃいでいるのであった。
あれは……、
幻だったのかな……?。
(2003.12.23)
( このページに流れている曲は「はじまり」です。柳瀬あきさんの曲です。幻想的な雰囲気を作っていただいてます。聞けば聞くほどいい曲だなと思います。柳瀬さんにはほんとにすごく協力いただいていて三曲目を使わせていただいています。どうしてもこのエッセイにと思ってしまいました。)
( アップロード 2003年5月31日 の予定で準備を整えましたが、結局2005年12月31日となってしまいました。時のたつのは早いものですね。 )