「 威張りやのソーラさん その二 」


 ソーラさんは、かなり問題があるように思われる。
子供のときから、ウチに来たので、完全に我が家状態で、
それはとてもいいことだが、あまりに態度がデカいのである。

 まず、食事の前に芸をしてもらうことになっているのだが、
なかなかやってくれない。
きちんと一つ一つ覚えているのに、やってくれないのだ。

 順番でいうと、まず「お鼻」から始まるのだけれど、
体が固まったままピタリとも動かなくなる。
 そして、もういちど、

「はい、お鼻だよ」

と芸を促すと、こともあろうに

「うー」

と低くうなったりするのだ。
ミニダックスである彼女ではあるが、なかなか凄みがある。

 こんなときは、真っ向から攻めてもダメなことがわかっている。
過去の経験において、子供のころから、いくどか根競べをしたことがあるが、
大変なことになるのである。

 こんなときは、ご機嫌が悪く、何かストレスがたまっているのである。
おふくろさん(毎日彼女たちに会いにくる)に聞いてみると

「今日は、忙しくて遊んであげられなかったのよ」と。


 丁重に話し掛けるのである。

「今日は、やけにご機嫌が悪いんじゃない?
まーねー、そう、うならないでさ、ちょっとやってみない、お鼻だけでもね」

このように説得に出るのである。
よく警察ものの取調べのシーンのように、カツ丼でも出したい気分である。

 一応の決まり事ではあるし、芸をしてもらわなければ、
ご主人としての立つ瀬がないと言うことは言えるのであるが。
まあどうせ、彼女たちからすれば、どうでもよいことである。

 以前なら、たとえうなっていても「はい、お鼻」
とそこから入ってゆけば、「くるんと回れ」とか、「コロりん」、とかに導入できた。
間違っても、最初から、「ずーと伏せ」などといってはならないのである。

 気安いところから、アプローチして、ご機嫌を伺いつつ乗せてゆくのである。
そんな時、わたしは、しめしめと思うのである。
心の中で、ほんの少し「ふふふ」と笑ったりもするのだ。
ここにこそ、人生の縮図があるのかもしれない。

               (つづく)

     その三